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佐賀地方裁判所 昭和32年(モ)6号 判決

申請人 真子和子

被申請人 真子政雄

主文

被申請人は別紙目録記載の不動産につき、申請人のため、昭和三十一年九月二十六日附贈与による所有権移転請求権保全の仮登記をせよ。

事実及び理由

申請人は主文同旨の裁判を求め、その理由の要旨は

申請人は昭和三十一年九月二十六日被申請人との間に、別紙目録記載の田畑、山林、宅地につき贈与契約を締結し、これが所有権移転請求権を取得した。ところが被申請人は前示不動産につき仮登記をなすことを肯じないので、右所有権移転の請求権を保全するため、本件申請に及んだ。

というにある。

(一)、よつて按ずるに、各真正に成立したと認められる疏甲第一号証(贈与契約公正証書謄本)及び疏甲第二号証乃至疏甲第十二号証(いずれも登記簿謄本)によれば、申請人と被申請人との間に、昭和三十一年九月二十六日本件不動産につき贈与契約が締結され申請人に於てこれが所有権移転請求権を取得したが、被申請人に於てこれにつき仮登記をなすことを肯じないことが一応認められる。したがつて本件山地宅地につき、これが所有権移転請求権を保全せんがためなされた本件申請は右不動産に関する限り理由があるというべきである。

(二)、しからば農地である本件田畑につき仮登記仮処分が許されるか、どうかを吟味してみることとする。思うに農地につき贈与契約が成立するとき、受贈者は贈与者に対し、農地法第三条所定の都道府県知事の許可前に於ても、知事の許可を条件とする農地の所有権移転請求権を取得する場合(本件は正にこれに該る)と、条件附所有権を取得する場合(この場合は将来知事の許可があれば改めて所有権移転の物権契約を締結する迄もなく、直ちに農地の所有権が移転するのである)があるというべく、いずれの場合も、受贈者は不動産登記法第二条第二号第二段所定の「停止条件附請求権」を取得する場合に該る訳である。しかしてこの条件附所有権移転請求権又は条件附所有権はいずれも一種の期待権であつて、債権又は物権そのものではなく、条件附所有権と雖も、物に対する直接の支配を内容とするものではない。換言すれば本件農地の直接支配を内容とするものではない。それ故に条件附所有権移転請求権はもとより、条件附所有権につき仮登記を許したとしても、農地法第一条に明示されている農地法の目的に反するものではない。尚条件附所有権移転請求権又は条件附所有権は民法第百二十九条により一般の規定に従い処分できるが、仮に該権利が申請人により処分されるとしても、農地自体に対する直接の支配迄も、知事の許可前に、被申請人より第三者に移転される訳でもないからこれ亦農地法の精神に反するとも考えられない。

(三)、かように観じ来ると、本件農地につき贈与契約が成立し、受贈者である申請人に対し未だ農地法第三条所定の都道府県知事の許可がないとしても、これが許可前に、被申請人に仮登記仮処分を命じても毫も農地法に背反するものではない。しからば本件農地につき、これが所有権移転請求権を保全せんがためなされた本件申請は右不動産に関しても亦、理由があることは明らかである。

よつて申請人の本件申請は全部正当としてこれを認容すべきであるから、主文のとおり決定した次第である。

(裁判官 富川盛介)

目録

佐賀県三養基郡中原村大字簑原字土井丸参四九七番壱

一、田六畝九歩

同所 字同 参四九八番イ

一、田壱反壱畝拾壱歩

同所 字内香田 四四四七番イ

一、田壱反拾八歩

同所 字同 四四四七番ロ

一、畑拾歩

同所 字外香田 四六四七番弐六

一、畑弐畝七歩

同所 字同 四八八九番弐

一、畑弐拾歩

同所 字杉谷 五参弐五番壱六

一、山林壱反五歩

同所 字堂ノ瀬 四八八九番壱

一、宅地参拾弐坪

同所 字同 四八八九番参

一、宅地六坪

同所 字同 四八八九番四

一、宅地九坪

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